金についての豆知識や、上絵付け(金彩)に使用する金液の種類、特徴および使用方法などについてご紹介いたします。


■ 目 次

1、金とは

2、上絵付に使用する金の種類と特徴

3、金液の使い方

4、金粉の使い方

5、焼成について

6、金液使用上の注意と安全性

7、金盛り・金下マットについて

8、筆の種類、特長、用途について

9、使用後の筆の保管方法




1、金とは
化学的に極めて安定で、空気、水、硫黄などに侵されない(酸化、還元しないので変化しない)金属元素である。
展性・延性に富み、線状に延ばすと、1グラムの金で約3000メートルになり、広げると0.5平方メートルにもなる。

2、上絵付に使用する金の種類と特徴
■ 金 液
金液は、金を王水(塩酸:硝酸=3:1の混合液)に溶かし、オレンジ色の塩化金酸を作る。塩化金酸と樹脂とを反応させて金レジネート(金液の元)を作り、これに付着剤(ビスマス)や表面剤(ロジウム)などの有機金属化合物を加えて金液を作る。
<ブライト金>
溶解した金化合物(金レジネート)が主成分で、金紛などの粒子物質が含まれないタイプ。
焼成後は光沢のある鏡面状の金皮膜が得られる。沈殿物質が含まれないので、撹拌しなくても使用可能。
<マット金>
溶解した金化合物に金粉などの粒子状物質をを加えたもの。
焼成後は艶のないくもった外観となるが、ジルコンサンドなどで表面を軽く磨くことでマット状の金色が得られる。
金の色調の違いは銀粉などを加えて調整される。銀の成分が無いと赤味となり、多くなるほど青味の色調が得られる。(黒マット金は、超微粒子の金紛を使用しており、液色が黒くまた、焼成後の外観もよりきめ細かなマット状となる。)
マット金は金粉などが沈殿するため、使用前によく撹拌をする。
撹拌しないと上澄み液だけを塗ることになり、ブライト金のように光沢になる。
<ハーフマット金>
マット金の約半分程度の金粉などが含まれた金液。ブライト金とマット金の中間のイメージ。
焼成後は磨かなくても問題はないが、ジルコンサンドなどで軽く磨くことでよりきれいなハーフマットの外観が得られる。
<フレークタイプマット金>
金箔をすりつぶしてフレーク状(鱗片状)に加工した金粉を加えたマット金で、金箔粉自体もキラキラと光を反射する為、焼成後磨かなくても上品なマット状の外観を得る事が出来るが、ジルコンサンドなどで磨くことでヘアーライン調でよりきれいな外観が得られる。
磨きにくい形状の作品の金彩にも有効。
■ 金 紛
文字通り金の粉体のものであるが、製造方法により次の二種類がある。   
<化学的処理>(粒状の金粉)
金地金を酸などで溶解し、その後化学的に還元させて細かい粒状として沈殿させる。その後金粉を濾過して取り出す。  
<物理的処理>(フレーク金粉・消し粉)
金地金をたたいて薄く延ばし、金箔を作る。その金箔を乳鉢に入れ、樹脂及び溶剤と共に撹拌棒で長時間すりつぶしフレーク状の微粒子粉末に加工する。その後洗浄して粉末を取り出す。
■ 金 箔
金を箔状に叩いて延ばしたもの。一般的な金箔は厚みが0.1μmである。絵付けなどに使用する場合、金箔では薄すぎて燃えてしまう場合があるので、厚箔(0.4μm前後)または上澄み(0.7μm)という金箔を使用するのが好ましい。

3、金液の使い方
塗り方
まず金液の入ったビンを、溶剤と沈殿物がよく混ざり合うように振り、金猪口などのガラスか陶器の小さな器に少量取り出す。塗布の手段や面積に応じて適宜粘性を調整する。金液は厚く塗りすぎると剥がれやちぢみの原因になり、逆に薄すぎると綺麗な金色の発色が得られないので、適切な塗膜で均一にする。また一度塗って乾燥してしまってから二度塗りをすると、リタッチしたときに金液に含まれる溶剤が下の金液を溶かしてしまうのでムラの原因となる。
初めてご利用される場合は、様々な濃度で塗布・焼成を行ったテストピースをあらかじめ作成することをお勧めします。
■ 薄め方
金液は基本的には原液を使用して塗布をする。
薄める必要がある場合は金液と同じメーカーの金油を使う(金油は金液に含まれる溶剤に似た成分で出来ている)。
金液を希釈する場合は、塗布する手段や面積に応じて適宜行うが、加える金油は金液の5%程度(~10%最大)を目安とすると良い。
保存の仕方
一度金猪口などに出した金液は元の瓶には戻さず、別の蓋付きの容器に移し、金油を少量加えてよく振り冷暗所に保存しておくとよい。冷蔵庫での保存は、金液を冷蔵庫から出して使用する際、外気温との差で結露し瓶の中にも細かい水滴がつくので避ける。
筆の保存は、細長い瓶に金油を少量入れ、筆の柄に布をぐるぐる巻きつけたもので栓をする方法が一般的である。(金油に筆先をつけないようにする。金油から蒸発する溶剤で筆が乾かないように保存する。)
■ その他
金液は湿気に弱いので、湿気が多い時は除湿器やエアコンを使用すると良い。又、不純物を嫌うのでホコリが入らないように注意し、金彩を施したものを乾燥する時もホコリがつかない所に置いておくこと。

4、金紛の使い方
金粉にフラックス(フリット)を少量混ぜ、ビヒクル(メジウム)で溶き、筆描きをする。金紛に混合するフラックスは重量比で5%前後で良い。
広い面積やボカシをする時はスポンジにつけて陶磁器面を軽くたたくようにのせると良い。(金液でボカシをすると薄いところが紫っぽく発色することがあるので注意を要する。)
フラックスをオイル溶きしたものを陶磁器面に塗っておき、その上から金粉をブラシと金網を使ってまぶす様に付着させる方法もある。

5、焼成について
金液を塗り終わったらまず乾燥させること。指で触っても付かなくなる程度まで乾燥させた後に窯に入れ、焼成する。
金液を焼成する際には有機物を燃やすために十分な酸素供給が必要なため、400~450℃になるまで蓋を少し開けておく事がポイント(2~3センチくらい)。
金液中の樹脂分が燃える時にガスが発生し、このガスで炉内が酸素不足にならないようにするためにも重要。酸素不足状態で金液の焼成を行うと、表面が曇ったり、付着性能が低下することがある。
焼成温度に関しては、塗布する素地の釉薬によって決定する。
還元磁器のように本焼成が1300℃以上で焼かれる釉薬の場合は800℃(~850℃)、酸化磁器や陶器質及びボーンチャイナなど本焼成が1200~1250℃程度の場合は700~750℃が望ましい。

6、金液使用上の注意と安全性
金液には有機溶剤が含まれています。使用量が限定的なため有害性は限定的ですが全く無害ではありません。
金液を使用する際は十分換気を行ってください。もし気分が悪くなった場合は、取り扱い作業を中止して、空気の新鮮な場所で安静にしてください。
皮膚に接触すると、皮膚に刺激を与え炎症が起きる可能性があるので十分に注意して下さい。もし付着してしまった場合は、金油やシンナー、アルコールなどを少量含ませた布又は紙(ティッシュペーパーなど)で拭き取った後、石鹸で良く洗って下さい。皮膚刺激または発疹などが生じた場合、医師の診察、手当てを受けてください。
眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗ってください。コンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外して、洗浄を続けてください。眼の刺激が続く場合は、医師の診察、手当を受けてください。
誤って飲み込んだ場合は、口をすすぎ、無理に吐かせないでください。気分が悪い時は、医師の診察、手当てを受けてください。

7、金盛り・金下マットについて
■ 金盛り
金盛りとは、陶磁器面に点やレリーフの立体的な盛り上げの下地を作り、焼成後に金液を塗布して彩色する方法である。
金盛り材料にも粉末のもの、ペースト状に練りあげられたものがある。
粉末のものは白ワニスやメジウムで固めに練り上げて使用する。ペースト状のものはすでに練られているのでそのまま使用することができる。
いずれの場合も適宜粘性を調整して陶磁器面に塗布して、その盛り絵具の指定温度で焼成する。
盛り絵具の上に金液を塗布して焼成する場合は、盛り絵具を焼成した温度よりも150℃前後低い温度で行うこと。
■ 金下マット
金下マットは、陶磁器面に焼成後マットになる絵具を薄く塗り、焼成後に金液を塗布することでエッチング(くさらし)風の彩色を行う方法である。
金下マット用絵具の上に金液を塗布して焼成する場合は、金盛り絵具℃同様、150℃前後低い温度で行うこと。

 

8、筆の種類、特長、用途について
金・白金およびラスター彩を行う場合、筆での塗布、スプレー吹き、ディッピングなどの方法がございます。
ここでは筆で塗布する場合の筆の種類と特長および用途についてご説明します。
■ 西洋筆
西洋筆は主にリスの毛で作られています。柔らかい毛質で程よい腰があり、金液の含みも良い筆です。万能的な筆です。金ダミ用にも使用できます。
■ふち金筆
馬の毛で作られた毛足の長い筆です。お皿や飲食器類の凸部に金液を付けるための筆です。この筆は筆の先端を使用するのではなく筆の腹(側面)をふちに当てて金彩を施します。
■花刷毛・リス刷毛
馬の腹毛、リスの毛を使用して作られた大変柔らかい刷毛です。少し厚みを持たせた作りとなっています。毛筆が柔らかく金の含みが良いため、金彩をなめらかに塗るのに最適です。
■テルピン刷毛
山羊の毛で作られています。花刷毛と比較すると毛筆は少し太めで腰が強い印象です。広い面積をムラなくべた塗りをする場合は、より柔らかい毛筆の花刷毛がベストですが、一般的にはテルピン刷毛でもある程度のべた塗りは可能です。
■長刀筆(なぎなた)
猫の毛で作られています。ロクロなどで細く長い線を描くための筆です。毛先は細く繊細ですが、筆の腹の部分に金液を多く含むことができるため液切れなく長い線が描けます。洋食器のお皿のリム部分などに細い線を引くような時に使用します。
■金描筆・面相筆
これらの筆には、毛書面相、イタチ面相、狸面相、黄軸・黒軸・赤軸など、筆の毛量、太さ、長さ、毛筆など様々な種類があります。
用途に応じて選択して使用します。

※上記の筆について画像でご覧いただけます。こちらをクリックしてください。→ 画像・動画のページへ

9、使用後の筆の保管方法
金液類をご使用後の筆や刷毛については、きれいに洗浄して保管することが基本です。
金液は油性(溶剤型)の塗料ですので、洗浄には有機溶剤を使用して洗浄します。
余分な金液をウエスやキッチンペーパーなどでぬぐい取り、金油で洗浄し、筆先を整えて保管してください。
金油の代替として市販のラッカーシンナーで予備洗浄を行うことも可能ですが、仕上げ洗浄には金油をご利用いただくことをお勧めします。

ある程度の頻度で金液をご使用される場合は、筆を洗浄せずに保管する方法もございます。
毎回洗浄を行うことで金液のロスが発生し、また洗浄油の保管管理なども必要になります。
金液の種類毎に専用の筆を準備して、筆を乾燥させないようにして保管することで金液のロスを低減できます。
筆をビンの中に宙吊りにして保管するイメージです。

※筆の保管方法について画像、動画でご覧いただけます。こちらをクリックしてください。→ 画像・動画のページへ